過労死防止学会

Japan Society for Karoshi Research

過労死等の防止のための対策に関する大綱(案)

過労死等の防止のための対策に関する大綱(案)   5月25日協議会

~過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ~

(第4回協議会で示された素案からの主要な変更箇所を朱字で示した。今後、第5回協議会で出た意見の一部を反映した最終案が会長および事務局の手でまとめられる予定)

第1 はじめに

近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっている。過労死等は、本人はもとより、その遺族又は家族にとって計り知れない苦痛であるとともに社会にとっても大きな損失である。

過労死は、1980年代後半から社会的に大きく注目され始めた.。「過労死」という言葉は、我が国のみでなく、国際的にも「karoshi」 として知られるようになった。近年においても、過労死等にも至る若者の「使い捨て」が疑われる企業等の問題など、劣悪な雇用管理を行う企業の存在と対策の必要性が各方面で指摘されている。また、過労死等は、人権にも関わる問題とも言われている。

このような中、過労死で亡くなられた方の遺族等やその方々を支援する弁護士、学者等が集まって過労死を防止する立法を目指す団体が結成された。団体では、全国で55万人を超える署名を集める等により被災者の実態と遺族の実情を訴え、立法への理解を得るよう国会に対する働きかけを行うとともに、地方議会に対しては法制定の意見書が採択されるよう働きかけを行った。また、国際連合経済社会理事会決議によって設立された社会権規約委員会が我が国に対して、長時間労働を防止するための措置の強化等を勧告している。このような動きに対応し、143の地方議会が意見書を採択するとともに、国会において法制定を目指す議員連盟が結成される等、立法の気運が高まる中で、過労死等防止対策推進法(以下「法」という。)が提出され、平成26年6月に全会一致で可決、成立し、同年11月1日に施行された。

このように、法が成立した原動力には、過労死に至った多くの尊い生命と深い悲しみ、喪失感を持つ遺族による四半世紀にも及ぶ活動があった。当初は、過重労働と脳・心臓疾患や自殺との関連性が必ずしも明らかではなかったが、現在では、長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには脳・心臓疾患との関連性が強いという医学的知見が得られている。また、業務における強い心理的負荷による精神障害により、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害され、自殺に至る場合があると考えられている。このような共通の認識の下、法には、過労死等の定義が、我が国の法律上初めて以下のとおり規定された。

・ 業務における過重な負荷による脳血管疾患
・ 心臓疾患を原因とする死亡業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とす               る自殺による死亡
・ 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

法では、基本理念として、過労死等の防止のための対策は、過労死等に関する実態が必ずしも十分に把握されていない現状を踏まえ、過労死等に関する調査研究を行うことにより過労死等に関する実態を明らかにし、その成果を過労死等の効果的な防止のための取組に生かすことができるようにするとともに、過労死等を防止することの重要性について国民の自覚を促し、これに対する国民の関心と理解を深めること等により、行わなければならないと定められている。また、この基本理念の下、勤労感謝の日を含む11月を過労死等防止啓発月間とすることが定められている。

また、国に過労死等の防止のための対策を効果的に推進する責務を課すとともに、地方公共団体は国と協力しつつ過労死等の防止のための対策の効果的な推進に努めなければならないとされている。事業主は国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策への協力、国民は過労死等の防止の重要性の自覚及びこれに対する関心と理解を深めることに、それぞれ努めるものとされている。

この大綱は、以上に述べた法の基本的な考え方を踏まえ、法第7条第1項の規定に基づき、過労死等の防止のための対策を効果的に推進するために定めるものである。

人の生命はかけがえのないものであり、どのような社会であっても、過労死等は、本来あってはならない。過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的として、今後、この大綱に基づき、過労死等の防止のための対策を推進する。

第2 現状と課題
1 労働時間等の状況
労働時間については、労働者1人当たりの年間総実労働時間は減少傾向で推移しているが、パートタイム労働者の割合の増加によるものと考えられ、一般労働者については2,000時間前後で高止まりしている(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)。

また、我が国は、欧州諸国と比較して、年平均労働時間が長い。さらに、時間外労働(週に40時間以上)を行っている者の構成割合が高く、特に週に49時間以上働いている労働者の割合が高い(ILO「ILOSTAT Database」 (日本は総務省「労働力調査」) による。)。

週の労働時聞が60時間以上の者の割合は、全体では近年低下傾向で推移し、1割弱となっているが、働き盛りの30代男性では平成26年は17.0 % と、以前より低下したものの高水準で推移してしいる。平成26年の全産業の週60時間以上の就業者は566万人、うち雇用者は468万人である(総務省「労働力調査」による。)

一方、年次有給休暇については、付与日数が長期的に微増しているものの、取得日数が微減から横ばいで推移しており、その取得率は、近年5割を下回る水準で推移している(厚生労働省「就労条件総合調査」による)。いわゆる正社員の約16%が年次有給休暇を1日も取得しておらず。また年次有給休暇をほとんど取得していない労働者については、長時間労働者の割合が高い実態にある(独立行政法人労働政策・研修機構「年次有給休暇の取得に関する調査」(平成23年による。)

2 職場におけるメンタルヘルス対策の状況
仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、平成25年は52. 3%と以前より低下したものの、依然として半数を超えている。その内容(3つ以内の複数回答)をみると、「仕事の質・量」(65. 3 %)が最も多く、次いで、「仕事の失敗、責任の発生等」(3 6. 6 %)、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」。(33.7 %)となっている。

現在の自分の仕事や職業生活でのストレス等について相談できる人がいるとする労働者の割合は9O. 8%となっており、相談できる人がいるとする労働者が挙げた相談相手(複数回答)は、「家族・友人」(83. 2 %)が最も多く、次いで、「上司・同僚」(75. 8 %)となっている。また、ストレス等を相談できる人がいるとした労働者のうち、実際に相談した人がいる労働者の割合は75.8%となっており、実際に相談した相手(複数回答)をみると、「家族・友人」(58. 9 %)が最も多く、次いで「上司・同僚」(53. 5 %)となっている。

メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、6O. 7% (平成25年)であり、前年の47. 2%より上昇している。取組内容(複数回答)をみると、「労働者への教育研修・情報提供」(46. 0 %)が最も多く、次いで、「事業所内での相談体制の整備」(41. 8 %)、「管理監督者への教育研修・情報提供」(37. 9 %)となっている。(以上、厚生労働省「平成25年労働安全衛生調査(実態調査)」による。)

なお、都道府県労働局等に寄せられている企業と労働者の紛争に関する相談のうち「いじめ、嫌がらせ」に関するものは、近年急増し、平成24年度には「解雇」の相談件数を上回り、最多となっている。

3 就業者の脳血管疾患、心疾患等の発生状況
我が国の就業者の脳血管疾患、心疾患(高血圧性を除く。)、大動脈溜及び解離による死亡数は、5年ごとに実施される人口動態職業・産業別統計によれば、減少傾向で推移しており、平成22年度は3万人余りとなっている。

年齢別にみると、60歳以上が全体の7割以上を占めており、高齢者に多い。また、産業別には、農業・林業、卸売業・小売業、製造業、建設業、サービス業等に多く、職業別には、農林漁業職、サービス職、専門・技術職、販売職、管理職等で多くなっている。

4 自殺の状況
我が国の自殺者数は、平成10年以降14年関連続して3万人を超えていたが、平成22年以後減少が続き、平成26年は2万5千人余りとなっている。

職業別にみると、被雇用者・勤め人(有職者から自営業・家族従業者を除いたもので、会社役員等を含む。)の自殺者数は、近年、総数が減少傾向にある中で概ね減少傾向にあり、平成26年は7,164人となっている。

一方、原因・動機別(遺書等の自殺を裏付ける資料により明らかに推定できる原因・動機を自殺者一人につき3つまで計上可能としたもの。)にみると、勤務問題が原因・動機の一つと推定される自殺者数は、平成19年から平成23年までにかけて、総数が横ばいから減少傾向にある中で増加したが、その後減少し、平成26年は2,227人となっている。原因・動機の詳細別にみると、勤務問題のうち「仕事疲れ」が3割を占め、次いで、「職場の人間関係」が2割強、「仕事の失敗」が2割弱、「職場環境の変化」が1割強となっている。(以上、警察庁「自殺統計」より内閣府算出。)。

5 脳・心臓疾患及び精神障害に係る労災補償等の状況
( 1 )労災補償の状況
業務における過重な負荷による脳血管疾患又は虚血性心疾患(以下「脳・心臓疾患」という。)を発症したとして労災請求された件数は、過去10年程度、700件台後半から900件台前半の間で増減している。

このうち、労災支給決定された件数は、平成14年度に300件を超えて以降、高い水準で推移し、平成19年度には392件に至った。その後、一旦は300件を下回ったが、平成23年度以降300件を超えて推移している。これら決定件数のうち、死亡に係る件数は、平成14年度には160件に至り、それ以降も100件を超えて推移している。業種別には道路貨物運送業が最も多く、職種別にも自動車運転従事者が最も多い。年齢別には40歳以上に多い。

一方、業務における強い心理的負荷による精神障害を発病したとして労災請求された件数は、平成11年度に初めて100件を超えた後、増加傾向で推移し、平成21年度には1,000件を超え、平成25年度には1,409件に至っている。

このうち、支給決定された件数は、平成14年度に100件にのぼり、平成18年度には200件超、平成22年度には300件超、平成24年度には475件に至った。平成25年度には、前年度に比べてやや減少したものの、436件と高い水準で推移している。これらの決定件数のうち、自殺(未遂を含む。)に係るものは、平成18年度以降60件を超えて推移しており、平成24年度には93件に至った。平成25年度には、63件と前年度に比べて減少したが、依然として60件を超えている。業種別には社会保険・社会福祉・介護事業、道路貨物運送業、医療業等に多く、職種別には事務従事者が最も多い。年齢別には30歳代に多く、脳・心臓疾患に比べ若い年齢層に多い。(以上、厚生労働省「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」による。)

(2) 国家公務員の公務災害の状況
一般職の国家公務員の公務災害について、過去10年程度では協議件数(各府省等は、脳・心臓疾患、精神疾患等に係る公務上外認定を行うに当たっては、事前に人事院に協議を行うこととされており、その協議件数。)は、脳・心臓疾患は、平成18年度に41件となっている以外は6件から25件の問で増減している。また、精神疾患等は、平成18年度に56件となっている以外は21件から44件の問で増減している。

このうち、過去10年程度では公務災害の認定件数は、脳・心臓疾患は2件から15件の問で、精神疾患等は3件から17件の間でそれぞれ増減している。いずれも特定の年度の件数が突出しているほかは、特段の傾向は認められない。最近5年間の公務災害認定者の職種別構成比では、脳・心臓疾患は一般行政職が13件、公安職が3件、指定職が2件、医療職、研究職、その他がそれぞれ1件となっている。同様に、精神疾患等は一般行政職が22件、医療職が10件、公安職が8件、専門行政職が2件、福祉職が1件となっている。年齢別には、脳・心臓疾患は50歳代、40歳代の順に多く、精神疾患等は20歳代、30歳代が同数で最も多い。

(3) 地方公務員の公務災害の状況
地方公務員の公務災害の受理件数について、過去10年程度では、脳・心臓疾患は、平成23年度まで41件から58件の問で増減した後、平成24年度は26件、25年度は14件となっている。また、精神疾患等は、29件から66件の問で増減している。

このうち、過去10年程度では公務災害の認定件数は、脳・心臓疾患は9件から20件の間で増減しており、精神疾患等は平成17年度に20件に増加した後、平成25年度まで15件から22件の間で増減している。最近5年間の公務災害認定者の職種別構成比では、脳・心臓疾患は義務教育学校職員が19件、警察職員が17件、義務教育学校職員以外の教職員が8件、消防職員が4件、その他の職員(一般職員等)が22件となっている。同様に、精神疾患等は義務教育学校職員が17件、義務教育学校以外の教職員が9件、消防職員が4件、警察職員が4件、その他の職員(一般職員等)が49件等となっている。年齢別には、脳・心臓疾患は40歳代、50歳代、精神疾患等は40歳代、30歳代の順に多い。

6 課題
過労死等については、これまで主に労災補償を行う際の業務起因性について議論されてきたが、その効果的な防止については、未だ十分とは言えないことから、過労死等の防止対策に資するため、長時間労働の他にどのような発生要因等があるかを明らかにすることが必要である。

また、就業者の脳血管疾患、心疾患(高血圧性を除く。)、大動脈癌及び解離による死亡数は、60歳以上が全体の7割以上を占めているものの、脳・心臓疾患により死亡したとする労災請求件数と大きな差がある。また、被雇用者・勤め人の自殺者のうち勤務問題を原因・動機のひとつとする自殺者数は、精神障害により死亡したとする労災請求件数と大きな差がある。-これらの差の部分について、遺族等が労災請求をためらっているという意見もあるが、詳細な統計がないこともあり、分析が十分とはいえない。

啓発については、一定程度はなされているものの、まだまだ十分とはいえる状況にない。特に若年者を対象とする教育活動を通じた啓発が必要である。

過労死等をもたらす一つの原因は長時間労働であるが、労働時間については、平均的な労働者ではなく、特に長時間就労する労働者に着目して、その労働時間の短縮と年次有給休暇の取得率を促進するための対策が必要である。また、労働時間の把握が様々な対策の前提になることから、その把握を客観的に行うよう啓発する必要がある。

メンタルヘルスについては、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合が半数を超えている中で、労働者が相談しやすい環境の整備が必要である。

第3 過労死等の防止のための対策の基本的考え方
1 当面の対策の進め方
過労死等は、要因が複雑で多岐にわたっており、その発生要因等は明らかでない部分が少なくない。このため、第一に実態解明のための調査研究が早急に行われることが重要である。

一方、啓発、相談体制の整備等、民間団体の活動に対する支援は、調査研究の成果を踏まえて行うことが効果的である。しかしながら、過労死等防止は喫緊の課題であり、過労死等の原因の一つである長時間労働を削減し、仕事と生活の調和(ワークライフバランスの確保) を図るとともに、労働者の健康管理に係る措置を徹底し、良好な職場環境を形成の上、労働者の心理的負荷を軽減していくことは急務である。また、関係法令等の遵守の徹底を図ることも重要である。このため、調査研究の成果を待つことなく、調査研究の成果を待つことなく当面、2に述べる視点から取り組むこととする。

これらの取組により、将来的に過労死等をゼロとすることを目指し、平成32年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下、年次有給休暇取得率を70%以上、平成29年までにメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上とする目標を早期に達成することを目指すこととする。また、今後おおむね3年を目途に、全ての都道府県でシンポジウムを開催するなど、全国で啓発活動が行われるようにするとともに、身体面、精神面の不調を生じた労働者誰もが必要に応じて相談することができる体制の整備を図ることを目指すこととする。

なお、調査研究の成果が得られ次第、当該成果を踏まえ、取り組むべき対策を検討し、それらを逐次反映していくこととする。

2 各対策の基本的考え方
( 1 )調査研究等の基本的考え方
過労死等の実態の解明のためには、疲労の蓄積や、心理的負荷の直接の原因となる労働時間や職場環境だけでなく、不規則勤務、交替制勤務、深夜労働、出張の多い業務、精神的緊張の強い業務といった要因のほか、その背景となる企業の経営状態や短納期発注を含めた様々な商取引上の慣行等の業界を取り巻く環境、労働者の属性や睡眠・家事も含めた生活時間等の労働者側の状況等、複雑で多岐にわたる要因及びそれらの関連性を分析していく必要がある。このため、医学や労働・社会分野のみならず、経済学等の関連分野も含め、国、地方公共団体、事業主、労働組合、民間団体等の協力のもと、多角的、学際的な視点から実態解明のための調査研究を進めていくことが必要である。

医学分野の調査研究については、過労死等の危険因子やそれと疾患との関連の解明、効果的な予防対策に資する研究を行うことが必要である。

その調査研究の成果を踏まえ、過労死等の防止のための健康管理の在り方について検討することが必要である。また、これらの調査研究が科学的・倫理的に適切に行われるよう、外部専門家による評価を受けるようにすることが必要である。

労働・社会分野の調査研究については、民間の雇用労働者のみならず、公務員、自営業者、会社役員も含め、業務における過重な負荷又は強い心理的負荷を受けたことに関連する疾患、療養者の状況とその背景要因を探り、我が国における過労死等の全体像を明らかにすることが必要である。

また、例えば、自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療等、過労死等が多く発生しているとの指摘がある職種・業種や、若年者をはじめとする特定の年齢層の労働者について、特に過労死等の防止のための対策の重点とすべきとの意見がある。調査研究に当たっては、このような意見を踏まえて、より掘り下げた調査研究を行うことが必要である。

また、これらの調査研究を通じて、我が国の過労死等の状況や対策の効果を評価するために妥当かつ効果的な指標・方法についても早急に検討すべきである。
これらの調査研究の成果を集約し、啓発や相談の際に活用できる情報として発信していくことが必要である。

(2 )啓発の基本的考え方
(国民に対する啓発)
過労死等には、労働時間や職場環境だけでなく、その背景となる企業の経営状況や様々な商取引上の慣行のほか、睡眠を含めた生活時間等、様々な要因が関係している。また、過労死等を防止するためには、職場のみでなく、職場以外においても、周囲の「支え」が有効であることが少なくない。

このため、過労死等を職場や労働者のみの問題と捉えるのではなく、国民一人ひとりが、労働者の生産した財やサービスの消費者として、ともに生活する社会の構成員として、さらには労働者を支える家族や友人として、自身にも関わることとして過労死等に対する理解を深めるとともに、それを防止することの重要性について自覚し、これに対する関心と理解を深めるよう、国、地方公共団体、民間団体が協力・連携しつつ、広く継続的に広報・啓発活動に取り組んでいくことが必要である。

(教育活動を通じた啓発)
過労死等の防止のためには、若い頃から労働条件をはじめ、労働関係法令に関する理解を深めることも重要である。このため、民間団体とも連携しつつ、学校教育を通じて啓発を行っていくことが必要である。

(職場の関係者に対する啓発)
過労死等は職場において生じるものであることから、その防止のためには、一般的な啓発に加えて、職場の関係者に対する啓発が極めて重要である。特に、それぞれの職場を実際に管理する立場にある上司に対する啓発や、若い年齢層の労働者が労働条件に関する理解を深めるための啓発も重要である。

職場における取組として、労働基準や労働安全衛生に関する法令の遵守が重要であることから、関係法令の規定や関連する事業主が講ずべき措置や指針及び関係通達の内容及びその趣旨に対する理解の促進及びその遵守のための啓発指導を行う必要がある。

また、過労死等の主な原因の一つである長時間労働の削減や、賃金不払残業の解消、年次有給休暇の取得促進のためには、単に法令を遵守するだけではなく、長時間労働を行っている職場においては、これまでの働き方を改め、仕事と生活の調和(ワ-クライフバランス)のとれた働き方ができる職場環境づくり進める必要がある。このため、各職場において、これまでの労働慣行が長時間労働を前提としているのであれば、それを変え、定時退社や年次有給休暇の取得促進等、それぞれの実情に応じた積極的な取組が行われるよう働きかけていくことが必要である。さらに、先進的な取組事例を広く周知するとともに、このような積極的な取組は企業価値を高めること、また、過労死等を発生させた場合にはその価値を下げることにつながり得ることを啓発することも必要である。

その一方で、過重労働対策やメンタルヘルス対策に取り組んでいる企業が社会的に評価されるよう、そのような企業を広く周知することが必要である。

長時間労働が生じている背景には、様々な商慣行が存在し、個々の企業における労使による対応のみでは改善に至らない場合もある。このため、これらの諸要因について、取引先や消費者など関係者に対する問題提起等により、個々の企業における労使を超えて改善に取り組む気運を社会的に醸成していくことが必要である。
なお、調査研究の成果を踏まえ、職種・業種等ごとに重点をおいた啓発を行うことが必要である。

(3) 相談体制の整備等の基本的考え方
労働者が過労死等の危険を感じた場合に、早期に相談できるようにするため、労働者が気軽に相談することができる多様な相談窓口を民間団体と連携しつつ整備することが必要である。

併せて、職場において健康管理に携わる産業医をはじめとする産業保健スタッフ等の人材育成、研修について、充実・強化を図ることも必要である。

相談窓口は、単に設置するだけではなく、労働者のプライパシーに配慮しつつ、必要な場合に労働者が薦踏なく相談に行くことができるよう環境を整備していくことが必要である。

また、そのためには、職場において、労使双方が過労死等の防止のための対策の重要性を認識し、労働者や管理監督者等に対する教育研修等を通じ、労働者が過重労働や心理的負荷による自らの身体面、精神面の不調に気づくことができるようにしていくとともに、上司、同僚も労働者の不調の兆候に気づき、産業保健スタッフ等につなぐことができるようにしていくことなど、相談に行くことに対する共通理解を形成していくことが必要である。

さらに、産業医等のいない小規模事業場に対して相談対応を行う産業保健総合支援センター地域窓口について、充実・強化を図ることも必要である。

また、職場以外においては、家族・友人等も過労死等の防止のための対策の重要性を認識し、過重労働による労働者の不調に気づき、相談に行くことを勧めるなど適切に対処できるようにすることが必要である。

(4) 民間団体の活動に対する支援の基本的考え方
過労死等を防止する取組については、家族を過労死で亡くされた遺族の方々が悲しみを乗り越え、同じ苦しみを持つ方々と交流を深めていく中で、それぞれの地域において啓発・相談活動を展開する民間団体や、全国規模での電話相談窓口の開設などを通じて過労死等で悩む労働者やその家族等からの相談に携わっている弁護士団体が活動している。さらには、これらの団体及び国・地方公共団体との連携の要となる民間団体や、研究者、弁護士等の専門家が研究会や啓発活動等を行う民間団体の組織化が行われている状況にある。

また、産業医の育成や研修等を通じて、過労死等の防止に向け活動している民間団体もある。
過労死等の防止のための対策が最大限その効果を発揮するためには、上記のような様々な主体が協力及び連携し、国民的な運動として取り組むことが必要である。
このため、過労死等の防止のための活動を行う民間団体の活動を、国及び地方公共団体が支援するとともに、民間団体の活動内容等の周知を進める必要がある。

 

第4 国が取り組む重点対策
国が重点的に取り組まなければならない対策として、法第三章に規定されている調査研究等、啓発、相談体制の整備等、民間団体の活動に対する支援について、関係行政機関が緊密に連携して、以下のとおり取り組むものとする。

併せて、国家公務員に係る対策も推進するとともに、地方公共団体に対し、地方公務員に係る対策の推進を働きかける。
なお、今後の調査研究の成果等を踏まえ、取り組むべき対策を検討し、それらを逐次反映していくこととする。

1 調査研究等
( 1 )過労死等事案の分析
過労死等の実態を多角的に把握するため、独立行政法人労働安全衛生総合研究所に設置されている過労死等調査研究センタ一等において、過労死等に係る労災認定事案、公務災害認定事案を集約し、その分析を行う。また、過重労働と関連すると思われる労働災害等の事案についても収集する。分析に当たっては、労災認定等の事案の多い職種・業種等の特性をはじめ、時間外・休日労働協定の締結及び運用状況、裁量労働制等労働時間制度の状況、労働時間の把握及び健康確保措置の状況、休暇・休息(睡眠)の取得の状況、出張(海外出張を含む。)の頻度等労働時間以外の業務の過重性、また、疾患等の発症後における各職場における事後対応等の状況の中から分析対象の事案資料より得られるものに留意する。精神障害や自殺事案の分析については、自殺予防総合対策センターとの連携を図る。また、労災請求等を行ったものの労災又は公務災害として認定されなかった事案についても、抽出して分析を行う。

(2) 疫学研究等
過労死等のリスク要因とそれぞれの疾患、健康影響との関連性を明らかにするため、勤労者集団における個々の労働者の健康状態、生活習慣、勤務状況とその後の循環器疾患、精神疾患のほか、気管支晴息等のストレス関連疾患を含めた疾患の発症状況について長期的に追跡調査を進める。

職場環境改善対策について、過労死等の防止の効果を把握するため、事業場問の比較等により分析する。

過労死等防止のためのより有効な健康管理の在り方の検討に用いることができるようにするため、これまで循環器疾患による死亡との関連性が指摘されている事項について、安全、かつ、簡便に検査する手法の研究を進めつつ、当該事項のデータの収集を行い、脳・心臓疾患との関係の分析を行う。

(3) 過労死等の労働・社会分野の調査・分析

過労死等の背景要因の分析、良好な職場環境を形成する要因に係る分析等を行うため、労働時間、労災・公務災害補償、自殺など、過労死等と関連性を有する統計について情報収集、分析等を行い、過労死等に関する基本的なデータの整備を図る。その際、それぞれの統計の調査対象、調査方法等により調査結果の数字に差異が生じることに留意するとともに、過労死等が「労働時間が平均的な労働者」ではなく、「長時間の労働を行っている労働者」に生じることにかんがみ、必要な再集計を行う等により、適切な分析を行う。また、諸外国の労働時間制度等の状況も踏まえて分析を行う。

これらにより得ることのできないデータ等については、企業、労働者等に対する実態調査を実施し、我が国における過労死等の全体像を明らかにする。

これらの調査・分析結果を踏まえ、過重労働が多く発生し、重点的に調査を行う必要のある職種、業種等を検討し、その特性に応じた過労死等の背景要因について、さらに詳細な調査、分析を行う。その際、当該分野において過重労働を経験した労働者の意見等も踏まえて調査研究を行う。

(4) 結果の発信
国及び過労死等調査研究センターにおいて、労災補償状況、公務災害認定状況、調査研究の成果その他の過労死等に関する情報をホームページへの掲載等により公表する。

2 啓発
( 1 )国民に向けた周知・啓発の実施
年間を通じて、インターネット、リーフレット、ポスター等、多様な媒体を活用し、国民一人ひとりが自身にも関わることとして過労死等及びその防止に対する関心と理解を深めるよう、ストレスに対処するための積極的な要因や職場環境も含め、広く周知・啓発を行う。また遺族についても苦痛を抱えていることが多いため、精神保健福祉センタ一等と連携し、遺族に対する支援に関する啓発を行う。

特に、過労死等防止啓発月間においては、過労死等の防止のための活動を行う民間団体が取り組むシンポジウムを支援して開催する等により、集中的な周知・啓発を行う。
さらに、安全衛生優良企業公表制度により、過重労働対策やメンタルヘルス対策に取り組んでいる企業が社会的に評価されるよう広く周知する。

(2) 大学・高等学校等における労働条件に関する啓発の実施
中学校、高等学校等において、勤労の権利と義務、労働問題、労働条件の改善、仕事と生活の調和(ワークライブバランス) について理解を、深める指導がしっかりと行われるよう、学習指導要領の趣旨の徹底を図る。また、その際、各学校の指導の充実を図るため、厚生労働省において作成した労働関係法令に関するハンドブックの活用や、都道府県労働局が行う労働関係法規等の授業の講師派遣について周知を行う。また、大学生、高校生等の若年者を主な対象とする労働条件に関するセミナーにおいて、過重労働による健康障害防止を含めた労働関係法令に関する知識について説明を行う。

(3) 長時間労働の削減のための周知・啓発の実施
過重労働、賃金不払残業の疑いがある企業等に対しては、労働基準監督署の体制を整備しつつ監督指導等を徹底する。過労死等を発生させた事業場に対しては、当該疾病の原因の究明、再発防止対策の徹底を指導する。

長時間労働の削減のためには労働時間の適正な把握が重要であることから、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」について周知・啓発を行う。

また、労働基準法第36条第1項の規定に基づく協定(時間外・休日労働協定)については、労働者に周知させることを徹底するとともに、月45時間を超える時間外労働や休日労働が可能である場合であっても、時間外労働協定における特別延長時間や実際の時間外・休日労働時間の縮減について啓発指導を行う。さらに、脳・心臓疾患に係る労災認定基準においては、週40時間を超える時間外労働がおおむね45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まり、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされていることに留意するよう周知・啓発を行う。また、2020年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下とする目標を踏まえて、週労働時間が60時間以上の労働者をなくすことに努めることや、長時間労働を削減するためには、労働時間設定改善指針に規定された各取組を行うことが効果的であることについて周知・啓発を行う。

また、過半数労働組合がない事業場にあっては、使用者は過半数代表者と協定を結ぶこととされていることから、協定が適切に結ぼれるよう、過半数代表者(過半数代表者に選出されうる労働者)に対しても、周知・啓発を行う。

さらに、調査研究により得られた知見を踏まえ、過労死等の発生に共通的に見られる要因やその効果的な防止方法等について周知・啓発を行う。

(4) 過重労働による健康障害の防止に関する周知・啓発の実施
時間外・休日労働時間の削減、労働者の健康管理に係る措置の徹底等、「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」について、行政体制を整備しつつ、事業者に広く周知・指導徹底を図る。その際、必要な睡眠時間を確保すること、生活習慣病など自らの健康づくりに取り組むべきことについても、事業者、国民に広く周知・啓発を行う。

裁量労働制対象労働者や管理・監督者についても、事業者に健康確保の責務があることから、労働安全衛生法に基づき、医師による面接指導等必要な措置を講じなければならないこと等について啓発指導を行う。

事業主、労務担当者等を対象として、過重労働防止対策に必要な知識を習得するためのセミナーを実施し、企業の自主的な改善を促進する。また、ポータルサイトを活用し、労働者、事業者等に広く周知・啓発を行う。

(5)「働き方」の見直しに向けた企業への働きかけの実施及び年次有給休暇の取得促進
長時間労働の削減に向けた自主的な取組を促進するため、業界団体や地域の主要企業の経営陣に対して働き方改革の実施を働きかける。

先進的な取組事例や企業が働き方・休み方の現状と課題を自己評価できる「働き方・休み方改善指標」等について、ポータルサイトの運営による情報発信を行う。
また、働き方改革に取り組む労使の意識高揚のため、シンポジウムを開催する。

一方、年次有給休暇の取得促進については、翌年度の年次有給休暇の計画づくりの時期である10月を「年次有給休暇取得促進期間」とし、全国の労使団体や個別企業労使に対し、集中的な広報を実施する。

また、国、地方公共団体が協働し、地域のイベント等にあわせた計画的な年次有給休暇の取得を企業、住民等に働きかけ、地域の休暇取得促進の気運を醸成する。併せて、地方公共団体の自主的な取組を促進するため、地域の取組の好事例を地方公共団体に情報提供する等により、その水平展開を図る。

(6) メ ンタルへヘルスケアに関する周知・啓発の実施
職場におけるメンタルヘノレス対策を推進するため、行政体制を整備しつつ、平成27年12月1日に施行される「ストレスチェック制度」及び「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の普及啓発・指導徹底を図る。小規模事業場に対しては、地域産業保健センターの利用を促進する等によりメンタルヘルスケアの促進を図る。また、産業保健スタッフ等の理解と適切な対応が肝要であることから、産業保健総合支援センタ一等において、メンタルヘルスに関する知識の付与と能力の向上等を目的とした研修を実施する。メンタルヘルス不調等の場合、職場の上司・同僚だけでなく、家族・友人等も不調のサインに気づき、必要に応じて専門家等につなげることが重要であることについて、メンタルヘルスに関する正しい知識の普及とともに広く周知・啓発を行う。

(7) 職場のパワーハラスメ ントの予防・解決のための周知・啓発の実施
職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた取組を進めるため、過労死等防止啓発月間を中心に、啓発用ホームページ、リーフレット、ポスター等、多様な媒体を活用した集中的な周知・啓発を行う。また、パワハラの予防から事後対応までをサポートする「パワハラ対策導入マニュアル」の周知・普及を図ることにより、労使、企業における取組を支援する。加えて、実効ある対策の推進のため、全国47都道府県において、人事労務担当者向けのセミナーを実施する。
さらに、職場のパワーハラスメントに関する実態調査を実施するとともに、更なる取組の促進策について検討を行う。

(8) 商慣行等も踏まえた取組の推進
長時間労働が生じている背景には、個々の事業主が労働時間短縮の措置を講じても、顧客や発注者からの発注等取引上の都合により、その措置が円滑に進まない等、様々な商慣行が存在する場合がある。このため、業種・業態の特性に応じて発注条件・発注内容の適正化を促進する等、取引関係者に対する啓発・働きかけを行う。
さらに、調査研究の結果や取引関係者に対する啓発・働きかけの結果等を踏まえ、業種・業態の特性に応じて長時間労働等の原因となり得る商慣行等の改善に関する関係者に対する働きかけを行う。

(9) 公務員に対する周知・啓発等の実施
国家公務員については、「超過勤務の縮減に関する指針」、「国家公務員の女性活躍とワークライフバランス推進のための取組指針」等に基づく超過勤務縮減に向けた取組を推進するとともに、そのための周知・啓発を行う。また、「職員の心の健康づくりのための指針」等の周知・啓発、管理監督者に対するメンタルヘルスに係る研修、e ラーニング教材を用いたメンタルヘルス講習、パワーハラスメント防止講習を行う。

地方公務員については、地方公共団体に対し、過重労働・メンタルヘルス対策等の推進を働きかける。

3 相談体制の整備等
( 1 ) 労働条件や健康管理に関する相談窓口の設置
労働条件や長時間労働・過重労働に関して、都道府県労働局、労働基準監督署等で相談を受け付けるほか、労働者等が相談できる電話相談窓口を設ける。また、メンタルヘルス不調、過重労働による健康障害等について、労働者等が相談できるよう、電話やメール等を活用した窓口を設ける等、相談体制の整備を図る。
健康管理に関しては、全国の産業保健総合支援センターにおいて、産業保健スタッフ、事業者等からの相談に対応するとともに、同センターの地域窓口において、産業保健スタッフ等がし1ない小規模事業場からの相談に対応できるよう体制の整備を図る。

また、ホームページ、リーフレット等を活用し、上記の窓口のほか、地方公共団体及び民間団体が設置する各種窓口の周知を図るとともに、相互に連携を図る。

(2) 産業医等相談に応じる者に対する研修の実施
産業医等がメンタルヘルスに関して、適切に助言・指導できるようにするため、過重労働やメンタルヘルスに関する相談に応じる医師、保健師、産業保健スタッフ等に対する研修を実施する。

さらに、医師、保健師、産業保健スタッフ等に対する研修のテキストを公開する等、地方公共団体や企業等が相談体制を整備しようとする場合に役立つノウハウの共有を図る。

働きやすくストレスの少ない職場環境の形成に資するため、産業医科大学や産業保健総合支援センター等を通じて、産業医をはじめとする産業保健スタッフ等の人材育成等について、体制も含めた充実・強化を図る。

(3) 労働衛生・人事労務関係者等に対する研修の実施
産業保健総合支援センターにおいて、衛生管理者や、労働衛生コンサルタント、社会保険労務士等、労働衛生・人事労務に携わっている者を対象に、産業医等の活用方法に関する好事例や良好な職場環境を形成する要因等について研修を実施する。

(4) 公務員に対する相談体制の整備等
国家公務員については、本人や職場の上司等が利用できる「こころの健康相談室」を開設するなど、相談体制の整備を図るとともに、相談しやすい職場環境の形成を図る。
地方公務員については、地方公共団体に対し、地方公務員等が利用できる相談窓口の整備等を働きかける。

4 民間団体の活動に対する支援
( 1 )過労死等防止対策推進シンポジウムの開催
過労死等を防止することの重要性について関心と理解を深めるため、11月の過労死等防止啓発月間等において、民間団体が取り組むシンポジウムを支援して開催する。

さらに、シンポジウム未開催の地域・ブロックにおいてもシンポジウムを開催し、今後おおむね3年を目途に、全ての都道府県で少なくとも毎年1回はシンポジウムが開催されるようにする。

(2) シンポジウム以外の活動に対する支援
民間団体が過労死等防止のための研究会、イベント等を開催する場合、その内容に応じて、事前周知、後援等について支援する。

(3) 民間団体の活動の周知
地方公共団体、労使、国民等が、民間団体が開設する窓口等を利用したり、協力を求めること等が円滑に行えるよう、民間団体の名称や活動内容等についてパンフレット等による周知を行う。

 

第5 国以外の主体が取り組む重点対策
地方公共団体、労使、民間団体、国民は、法の趣旨を踏まえ、国を含め相互に協力及び連携し、以下の視点から、過労死等の防止のための対策に取り組むものとする。

1 地方公共団体
地方公共団体は、国と協力しつつ、過労死等の防止のための対策を効果的に推進するよう努めなければならないとされている。

このため、国が行う第4に掲げた対策に協力するとともに、第4に掲げた対策を参考に、地域の産業の特性等の実情に応じて取組を進めるよう努める。対策に取り組むに当たっては、国と連携して地域における各主体との協力・連携に努める。
また、地方公務員を任用する立場からの対策を推進し、それぞれの職種の職務の実態を踏まえた対策を講ずるよう努める。

( 1 ) 啓発
地方公共団体は、住民が過労死等に対する理解を深めるとともに、それを防止することの重要性について自覚し、これに対する関心と理解を深めるため、住民に対する啓発を行うよう努める。
若年者に対する労働条件に関する知識の付与については、国と協働して、大学等での啓発を行うとともに、中学校・高等学校等において、生徒に対して労働に関する指導の充実に努める。

地域の産業構造や労働時間、年次有給休暇の取得率等の実態に合わせて、地域内の企業等に対し、過労死等の防止のための啓発を行うよう努める。
年次有給休暇の取得促進については、国、労使団体等と連携して、地域のイベント等にあわせた計画的な取得を企業、住民等に働きかけるとともに、地域全体における気運の醸成に努める。

また、過重労働による健康障害の防止、職場におけるメンタルヘルス対策、パワーハラスメントの予防については、国と協働して、周知・啓発を行うよう努める。

(2) 相談体制の整備等
地方公共団体は、過労死等に関しても相談を受け付けることができる窓口を設置している場合には、国等が設置する窓口との連携に努め

(3 ) 民間団体の活動に対する支援
地方公共団体は、民間団体が取り組むシンポジウムについて、協力・後援や事前周知等の支援を行うよう努める。

2 事業主
事業主は、国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策に協力するよう努めるものとされている。また、労働契約法第5条では、使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとすると規定されており、労働安全衛生法第3条第1項では、事業者は、職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならないと規定されている。
このため、事業主は、国が行う第4に掲げた対策に協力するとともに、労働者を雇用する者として責任をもって過労死等の防止のための対策に取り組むよう努める。

( 1 )経営幹部等の取組
過労死等の防止のためには、最高責任者・経営幹部が事業主として過労死等は発生させないという決意を持って関与し、先頭に立って、働き方改革、年次有給休暇の取得促進、メンタルヘルス対策、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組等を推進するよう努める。

また、事業主は、働き盛りの年齢層に加え、若い年齢層にも過労死等が発生していることを踏まえて、取組の推進に努めるのさらに、過労死等が発生した場合には、原因の究明、再発防止対策の徹底に努める

(2) 産業保健スタッフ等の活用
事業主は、過労死等の防止のため、労働者が必要に応じて産業保健スタッフ、安全衛生スタッフ等に相談できるようにするなど、その専門的知見の活用を図るよう努める。
これらのスタッフが常駐する事業場では、相談や職場環境の改善の助言等、適切な役割を果たすよう事業主が環境整備を図るとともに、これらがいない小規模事業場では、産業保健総合支援センターを活用して体制の整備を図るよう努める。

なお、産業保健スタッフ等は、過労死等に関する知見を深め、適切な相談対応等ができるようにすることが望まれる。

3 労働組合等
過労死等の防止のための対策は、職場においては第一義的に事業主が取り組むものであるが、労働組合においても、労使が協力した取組を行うよう努めるほか、組合員に対する周知・啓発や良好な職場の雰囲気作り等に取り組むよう努める。また、労働組合及び過半数代表者は、大綱の趣旨を踏まえた協定又は決議を行うよう努める。

4 民間団体
民間団体は、国及び地方公共団体等の支援も得ながら、過労死等の防止のための対策に対する国民の関心と理解を深める取組、過労死等に関する相談の対応等に取り組むよう努める。他の主体との協力及び連携に留意するよう努める。

5 国民
国民は、過労死等の防止のための対策の重要性を自覚し、これに対する関心と理解を深めるよう努めるものとされている。
このため、国民一人ひとりが自身の健康に自覚を持ち、過重労働による自らの不調や周りの者の不調に気づき、適切に対処することができるようにするなど、主体的に過労死等の防止のための対策に取り組むよう努める。

 

第6 推進上の留意事項
1 推進状況のフォローアップ
関係行政機関は、毎年の対策の推進状況を過労死等防止対策推進協議会に報告するものとする。同協議会では報告内容を点検し、関係行政機関は点検の状況を踏まえ、その後の対策を推進するものとする。

2 対策の見直し
法第14条では「政府は、過労死等に関する調査研究等の結果を踏まえ、必要があると認めるときは、過労死等の防止のために必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする」とされていることから、調査研究の結果を踏まえ、この大綱に規定されている対策について適宜見直すものとする。

3 大綱の見直し
社会経済情勢の変化、過労死等をめぐる諸情勢の変化、この大綱に基づく対策の推進状況等を踏まえ、また、法附則第2項に基づく検討の状況も踏まえ、おおむね3年を目途に必要があると認めるときに見直しを行う。